ゴッホの代表作として世界的に知られる「夜のカフェテラス」。その星降る夜の鮮やかな色彩に心惹かれ、一度は本物を見てみたいと考える方は少なくないでしょう。しかし、いざゴッホの夜のカフェテラスの本当の姿を追い求めようとすると、本物はどこにあるのか、どの美術館に行けば会えるのかという疑問が浮かびます。
この記事では、作品の魅力の解説はもちろん、所蔵するクレラーミュラー美術館の概要から、モデルとなった場所の興味深いエピソード、そして気になる本物の値段に至るまで、あなたの知りたい情報を網羅的にご紹介します。
さらに、過去の日本への来日や、今後の大ゴッホ展での夜のカフェテラスの展示予定、高品質なレプリカの情報、そして混同されがちな名作「夜のカフェ」との違いや、おすすめしたいゴッホの他の風景画についても触れていきます。
- 「夜のカフェテラス」の本物が所蔵されている美術館の場所と概要
- 2025年から日本で開催される「大ゴッホ展」での来日予定の詳細
- 作品の市場価値、モデルとなった場所、そして制作背景のエピソード
- 「夜のカフェ」との違いや、ゴッホのその他のおすすめ風景画
ゴッホ「夜のカフェテラス」の本物の詳細と魅力

- 本物はどこ?所蔵美術館を紹介
- 所蔵館クレラーミュラー美術館の概要
- 作品の魅力とは?専門家が解説
- モデルの場所と制作にまつわるエピソード
- 本物の値段は?推定市場価値を解説
- 自宅で楽しむなら高品質なレプリカ
本物はどこ?所蔵美術館を紹介

フィンセント・ファン・ゴッホの不朽の名作「夜のカフェテラス」の本物は、オランダのヘルダーラント州にあるクレラー・ミュラー美術館に所蔵されています。アムステルダムのゴッホ美術館と並び、世界最高峰のゴッホ・コレクションを誇るこの美術館で、大切に保管・展示されています。
そのため、この絵画を直接鑑賞したい場合は、オランダのオッテルロー村へ足を運ぶ必要があります。デ・ホーヘ・フェルウェ国立公園という広大な自然公園の中に位置しており、美術鑑賞と自然散策を同時に楽しめるユニークな環境が魅力です。
普段は海外に行かなければ見ることのできない貴重な作品ですが、後述するように、特別な展覧会で日本に来日することもあります。しかし、常設展示されているのは、世界で唯一クレラー・ミュラー美術館だけです。
所蔵館クレラーミュラー美術館の概要
「夜のカフェテラス」を所蔵するクレラー・ミュラー美術館は、実業家アントン・クレラーと、その妻で熱心な美術収集家であったヘレン・クレラー・ミュラー夫妻の個人コレクションが基盤となり、1938年に開館しました。
この美術館の最大の特徴は、何と言ってもその圧倒的なゴッホ・コレクションにあります。油彩画だけで約90点、素描なども含めると270点以上ものゴッホ作品を所蔵しており、アムステルダムのゴッホ美術館と並んで「ゴッホの2大聖地」と称されています。ゴッホの初期の作品から晩年の傑作まで、画家のキャリアを網羅的にたどることが可能です。
また、美術館がデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内にあることから、一帯はオランダ政府観光局によって「ゴッホの森」という愛称でPRされています。広大な敷地内には彫刻庭園も併設されており、自然と芸術が調和した空間は、日本の「彫刻の森美術館」が手本にしたことでも知られています。
作品の魅力とは?専門家が解説
「夜のカフェテラス」が時代を超えて人々を魅了する理由は、その革新的な表現技法と、ゴッホの内面世界が色濃く反映された点にあります。
黒を使わない夜空の表現
この作品が美術史上で特に画期的とされるのは、夜の風景を描きながら、絵の具の黒をほとんど使用していない点です。ゴッホは、夜空を単なる暗闇として捉えるのではなく、深い青や紫、そして星々の輝きといった豊かな色彩の集合体として表現しました。この鮮やかな色彩の対比が悪目立ちすることなく、夜の静けさと深遠さを見事に描き出しています。
光と色彩の鮮やかな対比
カフェを照らすガス灯の強烈な黄色と、夜空の深い青色の対比は、この作品の大きな魅力の一つです。ゴッホが得意とした補色(色相環で正反対に位置する色同士)の効果を最大限に活用することで、画面全体に鮮烈な印象と活気を与えています。暖色の光が作り出す温かい空間と、寒色で描かれた夜の静寂が、見る者の感情に強く訴えかけます。
これらの技法によって、単なる風景画を超え、ゴッホが感じた夜のアルルの空気感や感動そのものが、キャンバスに封じ込められているのです。
モデルの場所と制作にまつわるエピソード
「夜のカフェテラス」には、その背景にいくつかの興味深いエピソードが存在します。
モデルとなったカフェの今
この絵画のモデルとなったのは、南フランス・アルルの中心部、フォーラム広場に面していた「カフェ・ヴァン・ゴッホ」です。ゴッホがこの作品を描いたのは1888年9月のことでした。
絵画のモデルとなったオリジナルの建物は、残念ながら1944年の第二次世界大戦中の爆撃によって破壊されてしまいました。しかし、その後、作品の人気にあやかり、絵画を忠実に再現したカフェ「カフェ・ラ・ニュイ」が同じ広場にオープンし、観光名所として賑わっていました。このレプリカのカフェは、1990年代初頭に外壁が絵画そっくりな黄色に塗り替えられ、多くの観光客が訪れました。
ただ、この再現されたカフェは、残念ながら約1億6500万円もの売り上げを申告しなかった脱税により、2023年から営業を停止しています。
「最後の晩餐」をめぐる説
美術研究家のジャレッド・バクスターは、この作品がレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を意図的に参照しているのではないか、という説を提唱しています。その根拠として、カフェに描かれた客の数が12人であること、中央に髪の長い人物(キリストを暗示)がいること、その背後の窓枠が十字架に見えること、そして画面左手から去ろうとする影の人物がユダを象徴している可能性があることを挙げています。
牧師の息子であったゴッホは、自身も聖職者を目指した過去があり、信仰心が非常に篤かったことで知られています。この作品を描いた時期に弟テオへ送った手紙の中で「私は宗教が非常に必要だということを毎日感じる」と綴っていることから、この説は単なる憶測とは言い切れない深みを持っています。
本物の値段は?推定市場価値を解説

「夜のカフェテラス」はクレラー・ミュラー美術館のコレクションの中核をなす作品であり、市場で売買の対象になることはまず考えられません。したがって、その価格はあくまで推定値となります。
しかし、もし仮にオークションに出品された場合、その価値は専門家によって1億ドルから2億ドル(日本円で約150億円から300億円 ※為替レートにより変動)に達すると見られています。この金額は、ゴッホの他の作品の落札価格や評価額から類推されたものです。
作品名 | 所蔵・落札情報 | 推定価値・落札額 |
夜のカフェテラス | クレラー・ミュラー美術館 | 1億~2億ドル(推定) |
夜のカフェ(別作品) | イェール大学美術館 | 約2億ドル(推定) |
アイリス | 1987年オークション | 1億120万ドル(当時) |
このように、ゴッホの代表作は美術市場において極めて高い価値を持っており、「夜のカフェテラス」もそれに匹敵する、あるいはそれ以上の評価を受ける傑作であると言えます。
自宅で楽しむなら高品質なレプリカ

本物を所有することは現実的ではありませんが、高品質なレプリカであれば、自宅でその雰囲気を楽しむことが可能です。特に、ゴッホ作品の複製画を扱うグーピルギャラリーなどで販売されている「立体仕上げ」のレプリカは、原画の質感を追求したい方におすすめです。
立体仕上げとは、キャンバスに印刷された絵の表面に、メディウムと呼ばれる透明な樹脂を専門家が筆で一層一層塗り重ねていく技法です。ゴッホ独特の力強い筆のタッチや絵の具の盛り上がり(インパスト)を再現することで、印刷されただけの平面的な複製画とは一線を画す、立体感と深みのある仕上がりになります。
もちろん、本物の持つオーラには及びませんが、質の高いレプリカを選ぶことで、日常生活の中で気軽にゴッホの世界に触れることができます。
ゴッホ「夜のカフェテラス」の本物は日本で見られる?
- 過去にあった日本への来日歴
- 大ゴッホ展で「夜のカフェテラス」が来日予定
- 混同しやすい?もう一つの名作「夜のカフェ」
- おすすめしたいゴッホの風景画
過去にあった日本への来日歴

「夜のカフェテラス」は、過去に日本で展示されたことがあります。直近では、2005年に東京国立近代美術館で開催された「ゴッホ展 孤高の画家の原風景」で来日しました。
この展覧会は、クレラー・ミュラー美術館とファン・ゴッホ美術館という2大コレクションから名品が一堂に会する、非常に大規模なものでした。「夜のカフェテラス」は展覧会の目玉作品として大きな注目を集め、連日多くの美術ファンが詰めかけました。
他にも「黄色い家」や「糸杉と星の見える道」など、ゴッホの代表作が数多く展示され、日本国内でゴッホの芸術の真髄に触れることができる、またとない機会となりました。このように、常設展示はオランダですが、数年から十数年に一度のペースで、大規模な展覧会を通じて日本へ「来日」してくれる可能性があるのです。
大ゴッホ展で「夜のカフェテラス」が来日予定

美術ファンにとって待望のニュースがあります。2005年の来日から約20年ぶりに、傑作「夜のカフェテラス」が再び日本へやって来ます。
この貴重な機会を提供してくれるのは、阪神・淡路大震災から30年、東日本大震災から15年の節目を記念して企画された巡回展「大ゴッホ展」です。この展覧会は、ゴッホの画業を前期と後期に分けた第1期・第2期の二部構成で開催されます。
そして、「夜のカフェテラス」が展示されるのは、画業の前半に焦点を当てた第1期です。ゴッホがアルルで数々の傑作を生み出した時代のエネルギーを、この名画と共に感じ取ることができるでしょう。第2期では《アルルの跳ね橋》をはじめとする、画業後半の名作が展示される予定です。
以下に、第1期と第2期を合わせた展覧会のスケジュールをまとめました。
大ゴッホ展 巡回スケジュール(第1期・第2期)
開催地 | 会場 | 第1期 (主な展示作品:夜のカフェテラス) | 第2期 (主な展示作品:アルルの跳ね橋) |
神戸 | 神戸市立博物館 | 2025年9月20日(土)~2026年2月1日(日) | 2027年2月~5月頃 |
福島 | 福島県立美術館 | 2026年2月21日(土)~2026年5月10日(日) | 2027年6月19日(土)~9月26日(日) |
東京 | 上野の森美術館 | 2026年5月29日(金)~2026年8月12日(水) | 2027年10月~2028年1月頃 |
「夜のカフェテラス」を日本で鑑賞できる第1期は、またとない貴重な機会です。本物の持つ色彩の輝きと力強い筆致をご自身の目で確かめるために、ぜひお近くの会場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。なお、最新の情報については、展覧会の公式サイトをご確認ください。
混同しやすい?もう一つの名作「夜のカフェ」

ゴッホの作品には、「夜のカフェテラス」と名前が似ていて混同されやすい、もう一つの重要な名作「夜のカフェ」が存在します。この二つの作品は、制作時期や場所が近い一方で、描かれた対象と雰囲気は全く異なります。
「夜のカフェテラス」との違い
- 描かれた場所: 「夜のカフェテラス」がカフェの「外観(テラス席)」を描いているのに対し、「夜のカフェ」はカフェの「室内」を描いています。
- 舞台となったカフェ: 「夜のカフェテラス」のモデルはフォーラム広場のカフェですが、「夜のカフェ」のモデルは、ゴッホが「黄色い家」を借りる前に寝泊まりしていたラマルティーヌ広場の「カフェ・ド・ラ・ガール」です。
- 雰囲気と色彩: 「夜のカフェテラス」は、星空の下で人々が集う、どこか温かく開放的な雰囲気を持っています。一方、「夜のカフェ」は、赤と緑の強烈な対比色を用い、ビリヤード台が置かれた室内の息詰まるような孤独感や不穏な空気を表現していると解釈されています。
- 所蔵美術館: 「夜のカフェテラス」はオランダのクレラー・ミュラー美術館にありますが、「夜のカフェ」はアメリカのイェール大学美術館に所蔵されています。
このように、二つの作品は同じ「夜のカフェ」をテーマにしながらも、ゴッホの異なる視点や心理状態を映し出しており、比較して鑑賞することで、より深く画家の世界を理解することができます。
おすすめしたいゴッホの風景画
「夜のカフェテラス」に魅了されたなら、ゴッホが描いた他の風景画にもきっと心惹かれるはずです。ここでは、特におすすめの作品をいくつかご紹介します。
ローヌ川の星月夜(星降る夜)

「夜のカフェテラス」と同じ1888年にアルルで描かれた、もう一つの夜景画の傑作です。ローヌ川の水面に映る星々の光と街のガス灯が幻想的な雰囲気を醸し出しています。静寂の中に温かみを感じさせるこの作品は、パリのオルセー美術館で鑑賞できます。
星月夜

ゴッホの作品の中で最も有名と言っても過言ではない、渦巻く夜空が印象的な作品です。サン=レミーの療養院の窓から見た風景を基に、ゴッホの激しい内面世界が表現されています。この作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の至宝として知られています。
ラングロワ橋(アルルの跳ね橋)

ゴッホがアルルで日本の浮世絵の影響を強く受けて描いた作品群の一つです。明るい色彩とくっきりとした輪郭線が特徴で、南仏の強い日差しと、ゴッホの故郷オランダへの郷愁が感じられます。クレラー・ミュラー美術館所蔵です。
カラスのいる麦畑

ゴッホが最期を迎える直前に描かれたとされる、ドラマティックで不穏な空気に満ちた作品です。どこまでも続くかのような道と、不吉さを感じさせるカラスの群れが、画家の絶望的な心境を映していると解釈されています。アムステルダムのファン・ゴッホ美術館で見ることができます。
ゴッホ「夜のカフェテラス」の本物の鑑賞情報総括
この記事で解説した「ゴッホ 夜のカフェテラス」に関する重要なポイントを以下にまとめます。
- 本物はオランダのクレラー・ミュラー美術館に所蔵されている
- 美術館はデ・ホーヘ・フェルウェ国立公園内にあり「ゴッホの森」と呼ばれる
- 黒を使わずに鮮やかな色彩で夜空を描いた革新的な作品である
- カフェの黄色と夜空の青の補色対比が大きな魅力となっている
- モデルは南仏アルルのフォーラム広場にあったカフェである
- オリジナルのカフェは第二次世界大戦で破壊され現存しない
- 再現されたレプリカのカフェは脱税で2023年から営業停止中
- レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を主題にしているという説がある
- 推定される市場価値は1億ドルから2億ドル(約150億~300億円)
- 高品質な立体仕上げのレプリカも市販されている
- 2005年に東京の「ゴッホ展」で来日した実績がある
- 2025年から始まる「大ゴッホ展」で約20年ぶりに来日が決定している
- 神戸、福島、東京の3都市を巡回する予定
- 「夜のカフェ」は別の作品で、カフェの室内を描いている
- ゴッホには他にも「ローヌ川の星月夜」など魅力的な風景画が多い