レオナルド・ダヴィンチの傑作「最後の晩餐」。この歴史的な絵画の中心的なテーマである「裏切り」について、多くの方が関心を持っています。最後の晩餐に描かれた裏切り者はどれなのか、そして裏切り者とされるユダの位置は一体どこなのかという疑問は、この作品を鑑賞する上で最も興味深い点の一つです。
この記事では、裏切り者の理由や彼が何をしたのかという背景から、絵画に隠された様々な謎までをわかりやすく解説します。例えば、なぜペテロはナイフを握っているのか、イエスの隣に座るヨハネをめぐる説、さらにはダヴィンチが仕掛けたとされる都市伝説や秘密にも迫ります。
また、作品の芸術的な意味や魅力を深く理解するために、登場人物一人ひとりの描写や、ダヴィンチが用いた画期的な技法についても触れていきます。近年話題となった、絵画に隠されているとされる曲や音符の説にも言及し、この不朽の名作が持つ多層的な面白さを探求します。そして、この歴史的な壁画、最後の晩餐が現在どこにあるのか、鑑賞方法とあわせてご紹介します。
- 裏切り者ユダが絵のどこに描かれているかがわかる
- ユダ以外の12人の使徒とその役割がわかる
- ダヴィンチが絵に込めた構図の秘密や謎がわかる
- 「最後の晩餐」の実物を鑑賞する方法がわかる
「最後の晩餐」の裏切り者はどれ?人物を特定
- 最後の晩餐のわかりやすい意味と魅力の解説
- 最後の晩餐でユダの位置はどこ?左から何番目?
- 裏切り者の理由は?ユダは何をした人物なのか
- 全13人の登場人物を解説
- 優れた絵画技法、遠近法の消失点とは
最後の晩餐のわかりやすい意味と魅力の解説

「最後の晩餐」とは、イエス・キリストが十字架にかけられて処刑される前夜、12人の弟子(使徒)と共に取った最後の食事を指します。レオナルド・ダヴィンチの作品は、この食事の最中にイエスが「あなたがたのうちの一人が、わたしを裏切ろうとしている」と告げた、まさにその瞬間を描いたものです。
この絵画の大きな魅力は、イエスの衝撃的な言葉を聞いた弟子たちが、それぞれに動揺し、驚き、疑念を抱く様子を劇的に描き出している点にあります。一人ひとりの表情や仕草には豊かな感情が表現されており、鑑賞者はまるでその場に居合わせているかのような緊迫感を覚えます。
また、この食事はユダヤ教の重要な祭りである「過越の祭り」の食事でもありました。イエスはパンを「私の体」、葡萄酒を「私の血」として弟子たちに与え、キリスト教の重要な儀式である聖餐式の起源となった場面としても知られています。このように、宗教的な意味合いの深さと、普遍的な人間の感情を描いた芸術性の高さが融合していることこそ、この作品が時代を超えて人々を惹きつける理由と考えられます。
最後の晩餐でユダの位置はどこ?左から何番目?

「最後の晩餐」における裏切り者、イスカリオテのユダは、イエスから見て左側、3人のグループの中に描かれています。鑑賞者から見ると、イエスの左隣の人物(ヨハネ)から数えて3番目、テーブルについている人物全体としては左から4番目に位置します。
ダヴィンチは、他の弟子たちが大きく身振り手振りで動揺を示す中、ユダだけが後ずさりするように身を引く姿で描きました。彼の顔は他の人物よりも暗い影に覆われ、その表情からは不安や罪悪感が読み取れます。
さらに、ユダを特定する重要な手がかりが二つ描かれています。一つは、ユダが右手で固く握りしめている小さな袋です。これは、イエスを裏切る代償として受け取った銀貨30枚が入っていると解釈されています。もう一つは、テーブルの上のパンに伸ばされた左手です。福音書には、イエスが「わたしと一緒に鉢に手を浸した者が、わたしを裏切る」と語った記述があり、ユダがイエスと同じパンに手を伸ばすことで、彼が裏切り者であることを暗示しています。
裏切り者の理由は?ユダは何をした人物なのか

イスカリオテのユダがなぜイエスを裏切ったのか、その明確な理由は聖書にも詳しく書かれておらず、長年にわたり様々な解釈がなされてきました。
最も一般的に知られている理由は、金銭への欲望です。マタイによる福音書には、ユダが祭司長たちのもとへ行き、「彼をあなたがたに引き渡せば、いったいいくらくれますか」と持ちかけ、銀貨30枚で取引したと記されています。この記述から、ユダは金のために師を売った人物として描かれることが多くなりました。
一方で、他の解釈も存在します。例えば、ユダはイエスがローマの支配からイスラエルを解放する、政治的・軍事的なメシア(救世主)であると期待していたという説です。しかし、イエスが説く「神の国」がそのような世俗的なものではないと知り、失望から裏切りに走ったのではないか、と考えられています。また、イエスを当局に引き渡すことで、彼が奇跡的な力で窮地を脱し、自らがメシアであることを証明するよう促すつもりだった、という複雑な動機を指摘する声もあります。
ユダが具体的に何をしたかと言うと、祭司長や長老たちにゲッセマネの園で祈っていたイエスの居場所を教え、接吻を合図にして彼らがイエスを捕縛する手助けをしました。この行為によって、イエスは裁判にかけられ、十字架刑へと至ることになります。
全13人の登場人物を解説
「最後の晩餐」には、中央のイエス・キリストと、その両側に6人ずつ、合計12人の使徒が描かれています。ダヴィンチは12人の使徒を3人ずつの4つのグループに分け、それぞれの感情や関係性を巧みに表現しました。
以下に、テーブルの左側から右側へと順に人物を解説します。
グループ(鑑賞者から見て) | 人物名 | 特徴・動作 |
左端の3人 | バルトロマイ | 驚きのあまり、テーブルの端から立ち上がろうとしている |
小ヤコブ | 隣のアンデレとバルトロマイの間に手を伸ばし、イエスを見つめている | |
アンデレ | 両手を胸の前で広げ、「とんでもない」という驚きを表現している | |
左から2番目の3人 | ペテロ | 激しい性格で知られ、ヨハネに何かを耳打ちし、右手にはナイフを握っている |
イスカリオテのユダ | イエスから顔をそむけ、銀貨の入った袋を握りしめている | |
ヨハネ | イエスの最も愛した弟子とされ、衝撃のあまり気を失うようにペテロの方へ傾いている | |
中央 | イエス・キリスト | 静かに両手を広げ、運命を受け入れるかのように落ち着いた表情を見せている |
右から2番目の3人 | トマス | 人差し指を立て、疑いの表情でイエスに問いかけている |
大ヤコブ | 両腕を広げ、驚きと抗議の意思を示している | |
フィリポ | 両手を胸に当て、「私ではありません」と自身の潔白を訴えている | |
右端の3人 | マタイ | 隣のタダイとシモンの方を向き、イエスの言葉の意味について議論している |
タダイ | 驚きからか、背中をイエスに向けている | |
シモン | タダイと同様に、議論に加わっている様子が描かれている |
このように、一人ひとりのポーズや表情に注目することで、物語の深層をより一層理解することができます。
優れた絵画技法、遠近法の消失点とは

レオナルド・ダヴィンチの「最後の晩餐」が美術史上の傑作とされる理由の一つに、画期的な技法の導入が挙げられます。特に有名なのが、「一点透視図法」と呼ばれる遠近法を完璧に用いている点です。
この技法では、絵画の中のすべての線(建物の天井の梁、壁の模様、テーブルの縁など)を延長していくと、最終的に画面上の一点に収束するように描かれます。この収束する点のことを「消失点」と呼びます。ダヴィンチは、「最後の晩餐」において、この消失点を意図的にイエス・キリストの右のこめかみあたりに設定しました。
これにより、鑑賞者の視線は自然と絵の中心人物であるイエスに集まるように誘導されます。まるで、すべての出来事や弟子たちの動揺がイエスという一点から発せられ、またそこへ収束していくかのような、強烈な求心力と劇的な空間の広がりが生まれているのです。
数学や幾何学にも深い造詣があったダヴィンチだからこそ実現できた、計算され尽くした構図と言えます。この科学的なアプローチによって、絵画に圧倒的なリアリティと奥行きが与えられ、それまでの宗教画とは一線を画す革新的な作品となりました。
「最後の晩餐」で裏切り者はどれ?隠された謎
- ペテロがナイフを持つのはなぜか
- イエスの隣に座るヨハネの性別は女性?
- 絵画に隠された都市伝説と謎や秘密
- 絵に隠された音楽とは?曲や音符の説
- 実物の「最後の晩餐」はどこにある?
ペテロがナイフを持つのはなぜか

「最後の晩餐」の中で、裏切り者ユダの背後から身を乗り出すように描かれている使徒ペテロ。彼の右手には、不自然な角度でナイフが握られており、これは古くから多くの議論を呼んできました。
このナイフの意味を解釈する上で最も有力な説は、福音書の記述との関連性です。ヨハネによる福音書には、この後、イエスがゲッセマネの園で捕縛される際に、ペテロが抵抗して大祭司の僕の耳を剣で切り落としたというエピソードが記されています。ダヴィンチは、ペテロの激しやすい性格と、師であるイエスを守ろうとする忠誠心を、このナイフによって暗示していると考えられます。裏切り者が誰かを知り、その人物を許さないという強い意志の表れと見ることも可能です。
一方で、小説『ダ・ヴィンチ・コード』では、このナイフはイエスの隣にいる人物(マグダラのマリアとされる)に向けられていると解釈され、物議を醸しました。また、持ち方が不自然であることから、これはペテロの手ではなく、画面に描かれていない別の誰かの手ではないか、というミステリアスな説も存在します。
どの説が真実かは定かではありませんが、この一本のナイフが、絵画にサスペンスと多様な解釈の余地を与えていることは確かです。
イエスの隣に座るヨハネの性別は女性?

イエスの右隣(鑑賞者からは左隣)に座る人物は、伝統的にイエスが最も愛した弟子とされる使徒ヨハネであると解釈されてきました。しかし、この人物の容姿が非常に女性的であることから、実は使徒ヨハネではなく、マグダラのマリアではないかという説が根強く存在します。
この説の根拠として、以下の点が挙げられます。
女性的な容貌
描かれている人物には髭がなく、顔の輪郭や体つきも丸みを帯びており、他の男性的な弟子たちとは明らかに異なる雰囲気を持っています。これは、若者として描かれるヨハネの伝統的な表現方法ではありますが、特に女性的に見えるように描かれているという指摘があります。
イエスとの対比的な服装
イエスが赤の服に青のマントを羽織っているのに対し、この人物は青の服に赤のマントを羽織っています。これは、二人が対になる存在であることを示す、意図的な表現ではないかと考えられています。
構図上の不自然な空間
イエスとこの人物の間には、他の弟子たちの間に比べて不自然なほど大きなV字の空間が空いています。一部の研究者は、ダヴィンチがこの空間に、二人の間に存在したかもしれない子供などを暗示しているのではないかと推測しています。
この「ヨハネ=マグダラのマリア説」は、小説『ダ・ヴィンチ・コード』によって世界的に有名になりましたが、美術史家やキリスト教神学者の間では公式には認められていません。しかし、ダヴィンチが絵画に多層的な意味を込めることを好んだ芸術家であったことを考えると、この説が多くの人々の想像力をかき立て続けるのも不思議ではないでしょう。
絵画に隠された都市伝説と謎や秘密

レオナルド・ダヴィンチの「最後の晩餐」は、その完成度と知名度の高さから、数多くの都市伝説や謎、秘密が語られてきました。ここでは、特に有名なものをいくつかご紹介します。
こぼれた塩の壺
裏切り者ユダの右肘のすぐそばには、倒れてこぼれた塩の壺が描かれています。当時のヨーロッパにおいて、塩をこぼすことは「不吉なこと」や「裏切り」を意味する凶兆とされていました。ダヴィンチは、この小さな描写によってユダの運命を暗示していると考えられます。
ユダの姿は修復で変わった?
この壁画は、描かれた技法(テンペラ画)や食堂という環境、さらには戦争による損傷などにより、保存状態が極めて悪く、何度も修復が繰り返されてきました。一説によると、修復前のユダは銀貨の袋を持っておらず、驚きのあまりパンを落とした姿で描かれていたのではないかと言われています。現在の姿がダヴィンチの本来の意図と異なる可能性も指摘されており、謎の一つとなっています。
ダヴィンチ自身の顔
右から二人目に描かれている使徒タダイ(ユダ・タダイとも)の横顔が、ダヴィンチ自身の自画像ではないかという説があります。真偽は不明ですが、ルネサンス期の芸術家が作品の中に自画像を描き込むことは珍しくなく、可能性の一つとして語られています。
これらの謎や秘密は、科学的な確証がないものがほとんどです。しかし、そうした謎の存在こそが、「最後の晩餐」を単なる宗教画ではなく、時代を超えて人々を魅了するミステリーに満ちた作品にしていると言えるでしょう。
絵に隠された音楽とは?曲や音符の説

「最後の晩餐」にまつわる数ある謎の中でも、近年特に注目を集めたのが、絵画の中に楽譜が隠されているという説です。
2007年、イタリアの音楽家であるジョバンニ・マリア・パーラ氏が、この驚くべき説を発表しました。彼によれば、絵の中に描かれている弟子たちの手と、テーブルの上に置かれたパンの位置を音符として読み解くことができると言います。
楽譜の解読方法
パーラ氏の方法は、まずイエスが描かれている中央の窓の水平線を基準として、絵画全体に五線譜を重ね合わせるというものです。そして、弟子たちの手の位置とパンを音符と見なします。ダヴィンチが鏡文字(左右反転した文字)を書いていたことで有名なことから、この楽譜も通常の楽譜とは逆に、右から左へと演奏します。
このようにして解読されたメロディーは、約40秒ほどの荘厳で物悲しいレクイエム(鎮魂歌)のような曲になるそうです。イエスの運命を暗示するかのようなこの曲の発見は、「ダヴィンチ・コードの音楽版」として世界的な話題となりました。
この説がダヴィンチの真の意図であったかどうかを証明することは困難です。しかし、音楽にも精通していた万能の天才ダヴィンチであれば、このような精巧な暗号を絵画に隠していても不思議ではない、と多くの人が考えています。この発見は、作品の新たな鑑賞方法を提供する興味深いものとなっています。
実物の「最後の晩餐」はどこにある?

レオナルド・ダヴィンチ作の「最後の晩餐」は、イタリア北部の都市、ミラノにあります。具体的には、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会の敷地内にある、かつての修道院の食堂の壁に直接描かれた壁画です。
この傑作を鑑賞するためには、事前の準備が不可欠です。なぜなら、鑑賞は完全予約制であり、世界中から観光客が訪れるため、チケットは常に争奪戦となるからです。
鑑賞のための注意点
- 完全予約制: チケットなしで現地に行っても、鑑賞することはできません。
- 予約開始時期: 予約は通常、鑑賞希望日の数ヶ月前から公式サイトで開始されますが、予約開始直後に数ヶ月先まで満席になることも珍しくありません。
- 鑑賞時間: 壁画の保存状態を維持するため、一度に入場できる人数と時間が厳しく制限されています。一回の鑑賞時間は約15分間です。
- 予約方法: 予約は公式サイトから行うのが基本ですが、英語やイタリア語での手続きが必要です。また、現地のオプショナルツアーなどに参加し、ツアーの一部として鑑賞する方法もあります。
ミラノへの旅行を計画する際は、何よりも先に「最後の晩餐」の予約状況を確認し、早めにチケットを確保することが大切です。計画的に準備を進め、美術史に残る不朽の名作をぜひご自身の目でご覧になってください。
「最後の晩餐」の裏切り者はどれか総まとめ
この記事では、レオナルド・ダヴィンチの「最後の晩餐」に描かれた裏切り者と、それにまつわる様々な謎について解説しました。最後に、本記事の要点を箇条書きでまとめます。
- 「最後の晩餐」はイエスが処刑前夜に弟子と食事をした場面を描いている
- イエスが「この中の一人が私を裏切る」と告げた瞬間がテーマである
- 裏切り者は12使徒の一人、イスカリオテのユダである
- ユダは絵の左から4番目、イエスの左側のグループにいる
- 顔に影が落ち、身を引くような姿勢で描かれている
- 右手には裏切りの報酬である銀貨30枚の袋を握っている
- 左手はイエスと同じパンに伸ばされ、裏切り者であることを暗示する
- 裏切りの動機は金銭欲やイエスへの失望など諸説ある
- ダヴィンチは一点透視図法を用い、消失点をイエスの顔に設定した
- ペテロが持つナイフは、イエスを守ろうとする意志の表れとされる
- イエスの隣のヨハネは女性的で、マグダラのマリアではないかという説もある
- ユダの近くにこぼれた塩が描かれ、不吉な出来事を暗示している
- 絵には音楽が隠されており、レクイエムのような曲になるという説が提唱された
- 実物はイタリアのミラノ、サンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会にある
- 鑑賞は完全予約制で、チケットの入手は非常に困難である